「Because of you」




だが、夕食の時間が近づいても、ロロは帰って来なかった。
こんなことは初めてだった。どこに行っていたとしても、夕食の時間に遅れたことは今まで一度もなかったのだ。
 ルルーシュが、キッチンの窓から暗くなってきた空を見上げる。雲行きが怪しい。雨がぽつりぽつりと落ちてくる。
「…っ」
 ふいに嫌な予感が胸をよぎった。
まさかとは思うが。機情を裏切り、ルルーシュ側に付いた事が上に勘付かれたのだろうか? 機情どころか、よもやギアス嚮団に知られたとしたら。
 冷たい汗がルルーシュの背を伝った。
 まさか拉致された…? 
考えて、思わずぐっと強く握りしめた拳がわななく。
いや、そんなことはない。ある筈がない。あいつには時を止めるギアスがある。逃げようと思えばいくらでも―。いや、しかし、V.V.が相手ならギアスは効かない。コードを持つ者には、ギアスの効力など無意味だ。
(だから何だというんだ…! 俺には関係ない。あいつがどうなろうと、俺には…)

「くそ…っ」

 短く吐き捨て、そのままクラブハウスを飛び出して気付く。外は小雨が降っていた。
あいつは濡れていないだろうか? 
しまった、洗濯物を取り込むのを忘れていた。くそ、あいつのせいだ。ロロの当番だったのに…! 
ルルーシュが焦燥感に苛まれながらも、心中でこぼす。
 このまま放っておいても別に構わないが、しかし、そういうわけにもいかない。あいつにはまだ利用価値がある。まだまだ駒としても充分働いてもらわねば。絶対遵守のギアスだってまだ使ってはいないのだ。ということは、これから何でも命令出来る便利な駒として、幾らでも使い道はある。そうだ、まだ手放せない。まだ手放すわけにはいかないんだ。機情を、スザクを、ブリタニア皇帝を欺くためにも。まだ、あいつは。
――俺に必要なんだ。
「ロロ…!」
 すっかり日の落ちた薄暗い中庭を駆け抜け、学園内を探して駆け回る。部活上がりの生徒にも訊ねるが、ロロを見た者はやはり誰もいなかった。暗い不安に胸が掻き毟られるように痛む。それを打ち消すためにも叫ばずにはいられなかった。
「ロロ! ロロ!? どこだ、どこにいる!? ロロー!」